咲-Saki-SS『三色フリテン横恋慕』

 県予選の二回戦を終えて、みんなで歩く帰り道。
 でも、今は京太郎と二人。
 部長たちと別れたあと、のどちゃんと咲ちゃんを二人っきりにさせてやるために気を遣って先に行ってやったんだ。
 中学からの大親友だからな。
 のどちゃんが一番好きなのが誰かってことぐらい、わかるんだじぇ。
 ま、私には京太郎がいるし、二組にわかれたほうが都合がいいのだ。

「なあ京太郎。ところで送り狼ってなんだ?」

「はあ? 知らないで言ってたのかよ」

「それはそうだ。私の言葉はみんな友達の受け売りだからな!」

「威張ることじゃねーよ……」

「で、どういう意味なのだ?」

「え、えーと、それはだな……その……つまり……」

「ふむ」

「家に送るふりをして、お前をこのままどっかに連れ込んで、そんで……その……」

「ふむふむ。早く言え」

「エロいことするってことだよ!」

「そうかエロいことか。京太郎が私にエロいことをするのか」

 すでに夫婦な私たちには当然のことだな。

「ところでエロいことって、どんなことだ?」

「は……。お前……そんなことまで言わせんのかよ……。あー、たとえばだな……体に触るとか……?」

「体に……私がこっそりのどちゃんのおっぱい吸ったのはエロいことに入るのか?」

「そんなの余裕で入るだろ。――っていうか吸ったのかよ!? マジで!?」

「そっか。それがエロいことなのか。じゃあ京太郎もいつか私に同じことをするんだな」

「いや、しないけど」

 京太郎が私のおっぱいを吸うのかー。

 ……。

 え……?

 やだ。

 やだな。

 なんかいやだじょ……。

「あれ……もしかして私……京太郎のこと……好きじゃないのか?」

「……今頃気付いたのかよ」

 京太郎ごときに呆れられたじぇ。

「京太郎は知っていたのか?」

「オレたち同類なんだぜ? わかるっつーの」

「じゃあ私はいったい誰が好きなんだ?」

「お前がエロいことしたい奴だろ」

 エロいことしたい……?

 ……。

 そうだ。のどちゃんのおっぱいが吸いたい。
 あのおっぱいの味が忘れられないじぇ!

「行ってこいよ。今ならまだ、間に合うかもしれないぜ。手強いだろうけどな」

「……京太郎は意外といい奴だったんだな。今度タコスをおごってやるじぇ」

「はいはい」

 京太郎は優しく微笑んだ。
 お前、来世には惚れてしまうかもってぐらい格好いいじぇ!

 自転車を飛ばして星空の下を駆けるんだ。
 のどちゃん、今行くじぇ。私の嫁!

 風を切り、街灯の灯下をいくつも抜けて――

 光が見えた。あれは蛍か。

 人影が見える。あれは二人か。

 のどちゃんと咲ちゃんだ。
 街灯の明かりが届かない狭間で燐光に包まれる二人のもとへ、私は自転車を降りて近づいていく。
 二人は、手をつないでいる。
 相変わらず……くっつきすぎだじぇ。

「のどちゃーん! 咲ちゃーん!」

 戯れ事はやめろー!

「ゆーき! どうしたの、須賀君に送ってもらったんじゃないの?」

「も、もしかして京ちゃんが何か変なことした……?」

 京太郎はいい奴だったぞ咲ちゃん。まったく惜しい奴を亡くしたもんだじぇ……。

「違う。私はのどちゃんを嫁に貰いに来たのだ」

「嫁……ですか」

 のどちゃんが咲ちゃんの顔を見ながらポッと頬を紅潮させている。
 その反応はなんか対象が違うと思うんだじぇ……。

「咲ちゃん。のどちゃんのおっぱいは渡さないからな!」

「ええっ!?」

「ちょ、ちょっとゆーきっ!」

「原村さんの……お……お……」

 今度は咲ちゃんがのどちゃんのおっぱいを見ながらカーッと頬を紅潮させている。
 気持ちはよくわかるじぇ。
 あのおっぱいは美味しいからな。

「宮永さん……そんなに、見ないでください……」

「ああっ、ごめん原村さん!」

 しかし、いまだ名字で呼びあっているようでは私には勝てないだろうけどな!

「あ、あの……でも……もし、宮永さんが……私の胸に興味があるのでしたら……さ、触っても、いいんですよ……?」

「は、原村さん!?」

「でも……大きすぎて、気持ち悪いですよね……私の胸」

「そんなことない――そんなことないよ! 原村さんの胸、私は大好きだよ!」

「ああ、宮永さん……! 私も宮永さんが大好きです!」

 ……二人とも、もう私のことなんかちっとも見てないじょ。それになんか話がずれてる気がするし。

「あのー、無視しないで欲しいんだじぇ」

「え!?」

「あ!?」

 ほんとにほんとに忘れてたみたいだな。
 いいんだ。私なんて、のどちゃんのおっぱいに見捨てられた哀れなタコスなんだ。

 でも。

 のどちゃんの他の部分は渡さないじぇ!

「隙あり!」

「……!?」

 私の知る限りでは、のどちゃんはこれがファーストキスのはず。生娘ゲットだじぇ!
 どうだ咲ちゃん! 咲ちゃんより先にちゅーしてやった――

 ……あれ?

 ……のどちゃん……どうした?

 どうして泣いているんだじぇ?

「原村、さん……?」

「……うくっ……初めては……宮永さんとって……決めてたのに……」

 ……!

 そんな……。

 な、泣かないで欲しいんだじぇ……。
 のどちゃんを悲しませるつもりなんて、全然なかったんだ。
 ごめん……ごめんね……のどちゃん。
 のどちゃんの気持ちを考えなかった、私が悪かった。

 謝りたいのに……謝りたいのに……どうして、声が、出ないんだじぇ……。

「原村さん。こっちを向いて」

 のどちゃんの嗚咽の中、咲ちゃんの声が聞こえた。
 そして水中にいるような視界の中で、のどちゃんと咲ちゃんの輪郭の色が、重なったように見えた。
 その瞬間から、のどちゃんの悲しみが聞こえなくなって、辺りには虫の音だけが響いていた。
 制服の袖で目を拭って見ると、二人は真っ赤になって俯いていて、のどちゃんの涙は止んでいた。

「か、帰りましょうか。ゆーき」

 のどちゃんは、恥ずかしそうな、笑顔のような、今まで私が一度も見たことのない表情をしていた。
 形容するなら――とても幸せそうだった。

「ゆーき。明日は、絶対に勝ちましょう」

「う、うん。わかったじぇ」

 咲ちゃんに会ってから、のどちゃんは弱くも強くもなった。
 咲ちゃんの行動で、のどちゃんの心が、大きく揺らぐようになったんだ。
 さっきまでの泣き顔が、咲ちゃんが何かしただけで、今はこんなにも晴れやかに。
 恋ってそういうものなのかな。
 私はどうなんだろう。
 よく、わかんないじぇ……。

 帰り道。のどちゃんと咲ちゃんは、ずっとずっと手をつないでいた。
 あーあ、失恋しちゃったじょ……。

 なんてな。

 しんみりなんて、私には似合わないじぇ。
 明日の決勝でいいところを見せて、のどちゃんを振り向かせてやるのだ!
 見てろよ咲ちゃん。格好いい役満をブチ当てて、のどちゃんを寝取ってやるからな!

<了>

目次に戻る